スタジオ宙

奈良県吉野 林業の明日 フォーラムに参加

— Kori, invited as a Panelist at Forum for the Future of Nara Yoshino Forestry —

1月25日、奈良県橿原市商工経済会館で開かれた「吉野林業の明日にむけて」と言うフォーラムに、郡裕美がパネラーとして招待されました。杉の産地で有名な吉野の林業を取り巻く状況について話し合い、新しい可能性を探るという趣旨で催された会です。国産の材木価格は、この10年間ですっかり下落し、吉野にある多くの関連企業は廃業に追い込まれ、また、山の手入れをする山守の後継者問題も浮上し、林業は、危機にさらされています。木の家に住む伝統のある日本人にとって、建築にかかわる私たち設計者にとって、とても重要な問題なので、フォーラムの内容をかいつまんでご報告したいと思います。

吉野林業再生の課題と方向

まず、京都大学院農学研究科の川村誠先生のとても興味深い講演があった。吉野は、400年近く育て続けられて来た人工林としては世界でも珍しい存在であり、歴史的な価値があることを指摘された。でも、吉野がなぜ400年もの間、林業を守ってこれたかというと、そこに素晴らしい経営の知恵があったからだと言う。山の所有者とそれを管理する山守が分かれており、所有者は、投資することで利潤を得、山守は、管理することで生活費を得ていたらしい。こうすることで、山守は、複数の所有者の山をまとめて効率よく管理することができ、所有者は、小口の投資も転売も可能になり、山を投資資産として考えられる。吉野の山は、早くから今でいうところの「ファンド化」されていたということになる。

「吉野林業の明日に向けて」
講演の後、奈良女子大学の生活環境学部の藤平眞紀子先生が進行役となって、パネルディスカッションがおこなわれた。川村先生が指摘されたように、不便な場所にありながら、高度経済成長時以降、日本全国に吉野杉というブランドを行き渡らせた情報発信力に特徴がある吉野だが、時代が変わり、新住宅を建てる時に純和風の座敷をつくることが稀になった今、ほとんどブランドの意味が無くなっている。町の工務店ネット代表の小池一三氏、清光林業株式会社会長の岡橋清元氏、そして、スタジオ宙代表の郡裕美が、会場の参加者と共に、どうしたら、新たなニーズ、流通形式が確立できるかということ、また、どうしたら、山を維持するシステムができるのかという事について討論した。

「郡 裕美 私見」
真壁構造の純和風な住宅デザインが、これから再び日本でポピュラーになることは無いと思う。つまり、和風の造作材で有名な吉野だが、今後は、時代のニーズに合った新しい吉野杉の使い方を発見していかなければならない。既存の建築スタイルに囚われない新しいデザインを模索し、インターネットや宅配便など新しい流通形式も取り入れながら、新しい木の文化をつくり、新しい市場を開拓することが必要だと思った。

木漏れ日が神々しく差しこむ吉野の山林。機会があれば、いちど訪ねてみてはいかがですか?住宅が建てられている木材が、どんな風や光を感じながら森で育ち、どんな人たちの手で大切に守られてきたのか、感じながら暮らすというのは、生活にもうひとつの奥行きと楽しみを与えてくれるきっかけになると思いました。

投稿者:Yumi Kori |  講演会 Lectures |  記事本文